そんなことはアルマジロ

そんなこともアロワナ

続・世界最強の夢日記

 

全世界待望、世界最強の夢日記、再び。

 

簡単なメモを残しておいて、その日のうちにまとめなおしている。さすがにこんなことを寝起きに書いていられない。僕が起きて3秒でできるのはラジオ体操ぐらいだ。

 

5/8 天使

 

天使と逢う夢を久しぶりに見た。以前も説明したと思うが、僕の夢に出てくる天使というのはリングも翼もつけていない。温水洋一とか、滝藤賢一とかが天使として出てくる。なんか本物は逆に「そう」なんだろうなという妙な納得感があって、僕はそれらが天使であることを疑わない。その日の天使は、偶然同じ喫茶店にきていた中学時代の恩師だった。僕はお世辞にも素行が良いタイプではなかったので、良く問題を起こしては彼の世話になったものだった。とっさに僕は「お久しぶりです」と言って頭を下げた。恩師は、いや、天使なので、「誰?」と言った。しまった、天使だったか……。僕はとっさに「すみません、人違いでした」と言った。「人ぉ?」天使はキレた。天使の地雷を踏んだ。すみません、すみません。

 

この夢を見たので、久方ぶりの夢日記生活がスタートした。

 

5/9 天と地のまにまに

 

とてつもなく大きな沼に向かって空中を真っ逆さまに落ちていく夢を見た。前後の文脈は覚えていないが、飛行機から落ちたのだろう。いつもの僕なら怖いな~と思うはずなのだが、その日はなぜか「これもまた自然の成り行き也」という態度だった。こういう豪胆な男にあこがれた頃もあったが、身に余る自信を持つとろくなことにならないので、どうも自分はくだらない人間だと思っておく方が良い。結論だけ言っておくと、僕はそのまま沼に激突して死んだ。ダイラタンシー流体という類の話ではなくとも、空高くから海に落ちたらまず助からない。

 

起きた時、「あ~~~~よかった」と言った。本心では怯えていたのだろう。それでよい。人は。

 

5/10 ティンバーマン

 

薪を割る夢をみた。来る日も来る日も薪を割る。振りかぶった斧で薪を割る。割った薪でまた薪を割る。薪割りを効率化しようというような向きもあるが、僕はそういうものがあまりピンとこない。薪を割るというのは、メソポタミアの民が粘土版を作ったのと同じような意味で、本質的な労働であって、対価を求める事業ではなく神に対する奉仕のようなものではないのだろうか。それを効率化していくというところが、最終的には工作機械が出てきて、工場化して、結局は非本来的な人間の在り方を呪うという円環に閉じ込められるような薄気味の悪さ、暗闇に向かう意味のない行脚のようで、僕はいつも苦手だ。というようなことを思っていたが、話をする相手もいない。森には僕の斧の音だけがこだまする。僕は屁をこいて、それで目が覚めた。

 

5/11 無と長い髪の女とあいつ

 

見た夢の大部分を忘れた。

他者とのかかわりについて考えさせられる夢だったような気もするが、そうではなく、結局は孤独な内面の在り方を見せつけられるような、実によくある、いつもの夢だったような気もする。そういう夢に共通するのはいつも、長い髪の女が出るという事だ。

つくづく、人間はどうして人間関係というものに最大のドラマを見出そうとするのだろうか。個人の為すべき仕事があまりにも見えていない気がする。僕もまだよくわかっていない。よくわかっていないから、こんなものを書いている。

 

世界最強などと嘯いて。

 

5/12 医者というもの

 

なぜか病気でもないのに病院にいった、という夢を見た。というのは、病院で働いている友人を訪ねたからだ。そいつは僕が中学3年生から仲良くしているやつだ。今書いていて驚いたが、中学3年生というのは、つまり、17年前か。いつのまにか人生の時間の半分を超えていた。ともかく、彼は医者なので、病院で働いている。ちなみに、僕は彼の職場をよく知らない。2年ほど前にどこで働いていたかは聞いていたが、今もそこにいるのだろうか?まあ良い。このままでは、ただの日記になってしまう。日常的に人の生き死にに関わっている彼は、どんどん疲れがたまっていっているように見えた。僕は彼とコーヒーを飲んで、仕事の話をしていた。よくわからない単語がたくさん彼の口から飛び出したが、僕の口からも飛び出したので、たぶんない言葉だと思う。その日は、人がたくさん死ぬ日だった。大型トラックがたくさん死んだ人を運び出していた。

 

なんてことはないそれだけの夢だが、示唆に富んでいる気もする。だがその示唆はずいぶんと言外のことだと思うので、意味はそれぞれ考えてほしい。

それにしても17年か。

 

5/13 僕は後ろ向きな人間だと思う

 

僕とはあまり興味も関心も会話内容も噛み合わない人々の輪の中に入ることになった(ずいぶんと語弊のある言い方になるかもしれないが、僕にとっては、たとえば親族というのがそういう空間である。)そういうとき僕が何をするかというと、ただひたすら黙って相手の話を聞き、合いの手を入れることになる。その日の夢の中でも僕はひたすらに身の無い相槌を打っていた。ただ、その日は、僕が「へぇ~~」という時は本当に何の興味もない時だということが、その場にいた全員にバレていて、馬鹿にするな、見下すな、調子に乗るな、いろいろと怒られた。すみません、そういうつもりはないです。空虚な謝罪が浮かんでは消えていった。つまり、僕は自分の内面で、僕は周りの人にこういう怒りを向けられているのだろうと、自分で勝手に思っているわけである。

 

ちなみにその時の周囲の人たちの会話内容というのは、「カリフラワー星人の不倫について」だった。どうでもいいだろ、カリフラワー星人の不倫は。

 

5/14 宇宙シリーズ

 

僕は宇宙空間をただよう漂流船の最後の生存者だった。変な言い方になるかもしれないが、僕はこういう時はぜんぜん孤独を感じないのだ。僕にとって、孤独とは、相手との相互理解の不可能性に直面してはじめて感じるものだからだ。相手がいなければ孤独もない。やるべきことがシンプルで、欲望などひとつも抱く余地のない逼迫した状況は、居心地がいい。ただ、ひとつだけ困ったことがあった。星々を眺めながら宇宙を漂うのは、想像以上に暇で退屈だ。星々の景色というのは、全く変化のないものだからだ。200キロ以上続く一直線の道路を車で運転していて、周りの景色が何も変わらないというのに近いと思う。それがあまりにも退屈なので、僕は、やはりもう一人くらい生きていてくれたほうが良かったと思った。食糧もそろそろ尽きるが、そうなったらコールドスリープ装置で冷凍保存している他の乗組員の死体を食べるしかないな、と思った。さながら、『アンデスの聖餐』だ。幸か不幸か、デブリが接近している警戒音がした。僕は何もしないことにした。本当はできる限り、死ぬときはシャチに食われたかったが。

 

今思えば、星の海を航行するのは実に退屈だとか、デブリがどうとか、食糧が尽きるとか、夢なのだからもっと自由な世界を創造すればいいのに、僕の脳というやつは、何故こんなことまでちゃんとするのだろうか。

 

5/15 鉄(くろがね)

 

地元の、ケイゴという名前の一個年下の幼馴染がザリガニを手掴みで食べていた。まあこいつだからそれくらいのことはするだろう、と思った。僕は「そんなことしてないで、手伝ってくれ」と言った。ケイゴは眉をひそめたが、口からザリガニの鋏をチロリと出して首を縦に振った。僕はその日、ボロボロに壊れたロボット(清水栄一がデザインするような、下腿部がひし形になっていたり、肩当てが顔の4倍くらいあったりして、顔に牙の意匠が盛り込まれているようなやつだ。ていうか、まあ、まんまラインバレルだった)を解体する作業に参加することになっていた。僕とケイゴはその日の僕の夢の中では腕利きのメカニック(この言葉、ロボットアニメでしか聞かないな)だったので、解体作業をてきぱきとすすめたわけである。ロボットの回路がギリギリ生きていたので、外部制御でコックピットを開ける。コックピットの中は肉の焼けた匂いがした。人がここで死んだのだなとわかる匂いだ。シートには皮膚が張り付いていた。それを報告すると検疫官がかけつけてきて、サンプル収集のために僕たちは外で待機を命令された。念のため全身洗浄も行った。行政命令ということらしい。まったく、仕事というのはいつもこうだ。

 

・・・

 

今回は思ったより愉快な夢を見なかった。いつもはもっとばかばかしくて、愉快で、良いことがたくさん起こるはずなのだが(良いことというのは、別にワハハとかムフフとかそういうことではなくて、たとえば天使にフライパンで殴られるとか、400階建てのマンションから野球を盗み見して怒られるとか、とにかくそういうことだ)、今回はどうにもくだらないことばかりだった。

このままでは世界最強の座を奪われてしまうかもしれない。とはいえ、いまのところ夢日記が「面白さ」や「悲しさ」ではなく「強さ」で競っている例は聞かれないので、いまのところまだ僕が世界最強ということになるだろう。

 

 

そういえば、長らくケイゴとは会っていない。あいつは元気にしているだろうか。まあ、元気にしているだろうし、そんなことは気にする必要はない。あいつに元気がないなら、会いに行けば良いだけなのだから。

 

それをどうやって知るのかというと、実を言うと僕には友達がたくさんいる。

 

僕は後ろ向きだが、それと同じくらい、前向きなのだ。

 

(おわり)